人の心は厳密な階層によって形作られています。
感覚
∧
欲求
∧
知性
∧
感情
∧
主観性
より深いレベルに達した心は
それ以前にあるより浅いレベルの階層にある自分を
見つめることができるようになります。
子どもの発達を思い浮かべるとわかりやすいですね。
「知性」のレベルが未発達な子供は
「感覚」と「欲求」によって動いている自分を
「客観視」することができません。
ただ「気持ち悪い!」や
「これが欲しい!」と主張し、反応的な行動をとります。
「知性」のレベルに至って初めて
「感覚」や「欲求」によって動いている自分を観察することことができる
ということです。
また、私たち大人は
「頭ではわかっていてもどうしても気持ちがついていかない」
と感じることがありますね。
これは
「知性のレベルでは理解しているが
感情のレベルで受け容れることができない」
という状態です。
「感情」は「知性」よりも深いレベルにあるため
「知性」よりも強い力を持っています。
この点は、大人であっても、時に自覚しずらい状況に陥ることがあります。
ご経験がおありの方も多いと思います。
とかく「知性」レベルだけで自分を律することに終始すると
このようなことはしばしば起こります。
さて、ここで「感情」の層よりさらに深いところにある
「主観性」が登場する訳です。
「主観性」の層を、はっきりと感じられるようになった時
私たちはそれ以前の四つの層をすべて見渡す=客観視することが
できるようになります。
「客観性」の能力は、
まず、自分の心の中の動きを静かに眺めるところが出発点になります。
怒りなら怒りを
悲しみなら悲しみを
ただ受け容れ
静かに感じることを
自分にゆるす・・・
そうして、感情を観察できるようになった心は
自分の内面に視界をさえぎるものがないことに気づきます。
感情が生まれ、消えていく過程を、心の中に押し止めるものは
ないことを知るのです。
これがまさに
自分に対して「客観性」を獲得した状態です。
「主観性」を獲得した心は
自分のあらゆる意識の層を
客観的に、冷静に
観察する能力を得ます。
残念ながら、「感情を開放する」段階を経ずに
「主観性」に至る道はありません。
「感情」の層で、行き詰まった心は
それより深い心のレベルに気づくことができずに
立ち往生してしまうからです。
感情が自由になった結果
「知性」の「思い込み」(~せねば、~すべき、~は常識だ)
は解かれ
より洗練された「知性」は
「感性」と矛盾することなく活動できるようになります。
「感性」とは、「感情」がより洗練されたもの
と定義されます。
自分の内面を整理できた心は
安心して外の世界に興味を移していきます。
これは、母親からの愛情を確信できた子どもが
自分の興味を家の外へ、友達へ、と拡大していくのと似ています。
「主観性」という確信を持てた心は
「客観視」の能力を
自分の内面だけでなく
外の世界へと
拡張していくのです。
言い換えると
自分の心に自信を持てた人は
自分から離れて
他人や自分の外側の物事を冷静に観察することができるようになる
ということです。
自分の感情に曇らされることなく
他人の心の動きを感じることができるようになる
ということです。
ですから、「主観性」を得た人は
たとえ自分と他者がまったく違う意見や認識を持っても
感情に揺さぶられて冷静さを失うことはなくなり
ただ、自分と違う他者を「客観的に」認めることができるようになる訳です。
自分に「主観性」をゆるし、認めたと同じように
他者の「主観性」をも尊重することが自然とできるのです。
他者の価値観を受け容れることは
自分の「主観性」を侵害するものではない
という自信と安心を得ているからです。
実を言いますと…
私自身の経験から
また、ほとんどの方も
同じ経験をなさっていると思うのですが
「主観性」は一度つかんだ!と感じてもまた見失うことがあります。
人の心は揺れ動いています。
大きな感情の波が押し寄せて
それを丸ごと受け容れて感じることを、自分にゆるせない時
または、味わって静かに見つめるには辛すぎることが起こった時
「知性」と「感情」のブロックがかかり「主観性」への道は
一時的に閉ざされます。
それでも、一度「主観性」に至ったことのある心は
そこに、穏やかで、自信に満ちた
安心できる自分自身がいることを知っています。
一時的に感情によって乱された表面の自分を鎮め
「外で何が起ころうと失われない自分自身があったではないか!」
と戻っていくところを持っている。
これが、あるかないかで
生き心地は大変違ってきます
反対に
普段は「知性」で「感情」を律して生きている方も
時々、何かの拍子に自分の奥深くに厳然と存在する
「主観性」の片鱗にふっと触れることがある。
そんな時
すべてをゆるされている感覚
何があっても崩れない
自分は自分だ、という安心感
心が柔らかく、広がっていく自由さを感じて
身体からも気持ちからも力みが消えていくような経験
おありなのではないでしょうか?
それが、「主観性」の持つ力です。
「主観性」を目覚めさせておくこと
それも、私がカウンセリングを通して
クライアントさんに経験して戴きたいと願っていることです。
「主観性」について、より深くお読みになりたい方は
高橋和巳先生のご著書『人は変われる』をお読み下さい。
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